御奉仕いたします。



どうにかこの状態を抜け出さないといけない。
左近は片目をうっすらと細め、少し前から何度も舌で唇を舐め、奥歯を噛み締める。


稚拙な上にその動きは危なっかしい。


今、自分は三成に急所を握られあまつさえ銜え込まれている。

―― なんとも艶っぽいねぇ。

心の中でそんな事を呟きながら、左近は畳に付いていた利き腕を動かし、三成に触れる。
男の開いた足の間に座り込み顏を伏せているせいか表情があまりよく見えない。
その頭が上下に動く度にたまにちらりと見える伏せた眼差しと目尻の赤さに年甲斐もなく左近は
胸を高鳴らす。
そっとその赤胴色の触り心地の良い髪を撫で、耳に掛けてやれば膨らんだ頬が視界に入り、ぐっと
喉を詰まらせてしまう。

「さこん?」

口の中の熱が一気に増量し、尚且つ上から男の呻き声が聞こえてきて、三成は一端その熱から
意識を離し、視線だけを上に向ける。

自分はこういう艶事に慣れていないし、いまいちよく分からない。
ただ、己がされる時の事を考えればそれだけで下半身が熱くなり堪らなくなる。

何度か見た事や触れた事はあるが、口に入れたのは初めてなのだ。

頑なに拒否する男の太腿を両手で掴み絶対に逃がさんぞ!と睨み付け、それこそ今から褥を
共にする雰囲気とは程遠いくらいの眼力で下帯の中のそれを見つめ、指先で引っ張り出した。

既に反応している熱に気を良くしながらまずは先端に唇を押し当て、ちゅっと吸い上げれば
「殿っ!」と悲鳴に近い男の声がしたが聞こえないふりだ。

ちゅちゅっと何度か繰り返し、割れ目を舌で弄る様にしてやれば、左近の腰がびくりと動く。
ちゃんと快楽を与えているのかどうか不安な気持ちと大丈夫だという思いが湧いてきて、三成は
その行為に夢中になる。

くびれの部分が大きくて赤黒いそれは、三成の口の中で徐々に固さと大きさを増していく。
脈打つ振動に、ふと貫かれる瞬間を思い出し太腿を擦り合わせる。
触れても居ないのに、自分のそこが張りつめているのが分かり、三成は意識を左近の熱に向ける
努力をした。

「…さこん?」

唇を殆ど押し当てたままもう一度名前を呼べば、何処か困った顏をした男の大きな掌が三成の
上気した頬に触れる。
殆ど包み込まれる様なその仕草が気持ち良くて委ねる様にそこに頬を擦り付ける。

「気持いいですよ、殿」
「本当か?」
「意地悪な質問しないでくださいよ。殿が一番分かってるでしょう」

そっと頬を一撫でして、指先でつんと三成のそこを突く。

「な、何をする」
「いやね、ここがふっくら盛り上がっていて大変可愛らしいかったんですが、それが左近のを銜えている
のかと思ったら、こう何ていうか堪らない気持ちになりました」
「し、痴れ者っ!」

飄々と恥ずかしい事を言ってのける男の太腿を掌でぱちっと叩きながら、三成はぷいっと左近から視線を
外す。

「くくっ、本当にお可愛らしい方だ」

熱の籠った音で返され、三成は体を震わせる。
きっと今夜は焦らされ鳴かされ、甘やかされるのだ。

だが、と三成は自分の目的を思い出し、決意新たに左近の熱を眺め口に含む。

「っ、と、の…急には反則でしょうが」
「ん…うる、さい…っ」

自分だってしてやりたいのだ。
別に何かあったわけでもないし、理由があったわけでもない。

いつも通り、夜半になり三成の部屋に顏を覗かせた左近と軽く酒を飲みながら他愛もない話をして、
指先が触れ唇が重なり、互いに互いを引き寄せた。
褥に押し倒され顏中に優しい口付けを受け首筋に軽く吸い付かれた瞬間、三成はふと思ったのだ。

自分から口を吸う事はたまにある。
幾多の戦を乗り越えてきた証拠の残る分厚い身体に触れ、古傷を舌で舐めたりした事だってある。

―― ほら、殿のせいで左近のこれが大変な事になってますよ。

そんな助平な事を言いながら指先をその熱に持って行かれ握り込んだ事もある。

―― 殿、ここで左近と繋がってるんですよ。わかりますか?

いつもより低くて熱い欲情した声でささやかれ、快楽を生み出している場所にだって震える指先を
近づけて触れた事もある。


だけど自分から積極的に動いた事はない。
悔しいという感情が少し、後は愛しさだ。

―― 殿、ここがいいですか?

―― 殿、随分と気持ち良さそうに鳴いてくれますなぁ。

―― 殿…好いておりますよ。

少しだけ意地悪な事をされたり焦らされたり、閨での左近は少しだけ普段の顏とは違う部分を見せてくる。
どちらも本当の男だと知っているのは三成だけだ。

呆れる程に優しくて、それは甘くて切ない。

囁かれる度に、触れられる度に、溢れる程の想いが込み上げる。
口にする事が苦手な自分に対して決して左近は無理強いをしない。

素直に言える筈がない自分の性格を恨んでしまう時もあるが、もし出来るなら少しずつでも伝えていきたい。

それは言葉と態度で。

「殿、そんなに強くされちまったら…出ちまいますよ」

熱く吐き出す息を耳にしながら三成は深く銜え込む。
唾液だけではない淫らな音が響き、左近は腹に力を入れる。

このままでは間違いなく三成の口の中に放ってしまう。
それだけは避けたい。
だが、無理やり三成を引き剥がす事は出来ないし、素直に告げた所で負けず嫌いな情人は意地になるだろう。
もちろんそんな姿も愛しいと思っているし、そんな風に挑まれたら今までの過去の経験も空しく
即達してしまうに違いない。

三成を納得させるだけの理由を口にしなければいけない。

まずは決して選んではいけない選択肢は、

―― 殿のお口を穢したくないんです。

―― もう十分ですよ、殿。

間違いなくこの二つは駄目だ。

意地になる事が目に見えている。
だが、左近の心境としては選んではいけない選択肢の答えが本心なのだ。

口淫が嫌いなわけじゃない。
ましてや誰よりも愛しい人の可愛らしい唇が自分の欲望をいやらしく愛撫しているのだ。
三成にしてもらうのは初めての事だが、想像以上の艶っぽさに眩暈すら感じる。

自分の赤黒いそれを必死に唇で舌で攻めてくる三成の色気は、少し前まで色を知らなかった人物とは
思えない程に堂に入っている。

稚拙なくせに遠慮なく挑んでくるのだ。

その艶を引きだしたのが自分だと思えば尚更愛しさが増える。

だが、この件とは別だ。

「くっ…」

甘噛みされ、思わず達しそうになり左近は喘ぐ。
なくなりそうな余裕を擦り切れそうな理性を縫い付けながら、頭を動かす。

―― 戦中より大変だね、これは。

心の中で軽口を叩きながら左近は額に浮かんだ汗を手の甲で拭う。
もう片手は相変わらず三成の柔らかい髪を撫で続けている。

だが、ここで引き下がるわけにはいかない。

戦も艶事も軍略家として勝ちたいと思うのは男の性だ。


「殿、少しだけ手加減してくださいよ」
「…構わん」
「このまま出していんで?」
「当たり前だ」

ぶっきら棒に答えながらも熱の先端から溢れ出している先走りを舌でちろちろと舐めている姿に
左近は熱い息を吐き出す。

「ねぇ、殿…その後、口吸いしてくれますか?」

その問い掛けに三成の動きが綺麗に止まる。

「さこん…」
「はい」
「…」

三成の視界がぼんやりと滲む。
快楽半分と悔しさ半分。

「殿、ほら」

優しく声を掛け、ゆっくりとその体を抱き上げる。

「さこん」
「はい」
「気持ち良かったか?」
「極楽かと思いましたよ」
「…馬鹿者」
「あぁ、でも左近はもっと素晴らしい極楽を知ってますからね」
「何処だそれは」
「意地悪な事を聞かれる。極楽に一人で行っても仕方ないでしょう」

左近の腰に足を巻き付けながら三成はふんと鼻を鳴らす。
可愛い照れ隠しをする愛しい人の頬に唇を当てながら、左近は囁く。

「殿、共に極楽に参りましょうか?左近が案内いたしますよ」
「連れて行け」
「はい」

視線を絡ませ、唇を重ねて舌を絡める。

「さ、こん」
「どうしました?」
「嫌、か?」
「あぁ、味ですか」
「う、うむ…自分の味なんて知りたくないのだろう?」
「殿はそう言ってましたね」
「…あ、あれは…さ、最初はそう思ったが…な、慣れた」
「それは良かった。左近は殿のここを口でするのが好きですけど、その後に口吸いが出来ないと悲しい
ですからね」
「…おい」

会話の途中から快楽に潤んだ三成の眼差しに少しだけ剣のある色が混じる。

「どうしましたか」

わざとらしく答えながら、三成の腰に回した手で背中と形の良い尻を撫でまわす。

「お、俺はお前が嫌だと思うから途中で止めたのだぞ!だ、だが…俺が慣れたのだから、お前だって
慣れれば良いだけの話ではないか!」
「はて、それは気づきませんでしたな」
「さこん!」

むきーっと叫び暴れ出す三成の体を笑いながら抱きしめ、左近はつむじに口付ける。

「殿、俺はどうやら奉仕する方が好きなんです。だから、左近の楽しみを奪わないでくださいよ」

懇願する様に囁き、ね?と視線を合わせれば三成が真っ赤な顏をして微かに頷く。

「でもね殿、凄く嬉しかったのは本当ですから」

そこで一端言葉を切り、三成の唇を指先で撫で左近はニヤリと笑う。

「さ、こん」
「たっぷりとお返しさせてもらいますよ」

甘い空気に混じってひどく艶が混じった色が互いを包み込む。
長い夜が始まる。






20120123

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